agenda / アジェンダ 歴史ある寺町にそっと溶けこむバッグのショップ兼アトリエ

お寺を中心に昔ながらの風景が広がる台東区谷中。お寺の境内や家々の軒先に季節の花が咲き、視線を上げれば広い空が広がる。山手線の内側にあるとは思えない、ゆったりとした空気が流れるこの町に、アジェンダはある。バッグのブランドとして知られるボーデッサンの直営店だ。

 アジェンダがオープンしたのは2002年4月のこと。JRなら日暮里駅、東京メトロなら千駄木駅が最も近いが、JR上野駅や東京メトロ根津駅からもお散歩がてら歩くこともできる。それがまた、街歩きで人気の谷根千ならではの魅力と重なって、わざわざ足を運びたくなる理由となっている。

 この場所にお店を作るきっかけと理由を、ボーデッサンで企画を手掛ける市澤仁さんはこう話す。

「もともとボーデッサンは卸専門の会社だったんです。しかし、次第に卸先も代替わりしていくもの。地方都市が疲弊してバッグ専門店のお客様が郊外のショッピングモールに流れてしまうようになりました。そうした時代の変化の中、自分たちの力量でできるお店を作ろうと考えたのです」

 ボーデッサンの生産拠点は皮革の街・草加にあるが、オフィスがあるのは台東区浅草。そこで、同じ台東区内で、独自の文化や雰囲気を持つ谷中が選ばれたというわけだ。

「実は、ボーデッサンのバッグがすべてここにあるわけではないんです。ボーデッサンには、かなりのヴァリエーションの商品があります。その中から代表的なモデルや、あまり他の店舗には置いていないけれど、ぜひお客様に手に取っていただきたいモデルを選んで置いています。」

 その魅力は、さまざまな素材のバッグを実際に見て触れられること。素材にこだわるボーデッサンの皮革製品も、そのぽってりとしたフォルムや革ならではの手触りを確かめることができるのだ。

 皮革製品の他にも、高品質ナイロンなどの素材を使い、パーマネントスタンダードをテーマにしたリュックやトートなどが並ぶ。不思議なのは、これだけ素材も形も色も違うアイテムが並んでいるのに、同じ空気を纏っていること。ぽってりと丸みを帯びた形でありながら、どこか凛々しく清々しい。それはきっと、作り手たちの思いがその一つひとつに込められているからだろう。

近所の人がお散歩がてら訪れたり、まち歩きで谷中にやってきた人がふらりと店に入ってきたり。その出会いを大切にしているうちに、アジェンダはこの穏やかな土地に溶け込み、地域で愛される店になった。

最近は、ご近所の常連さんやまち歩きの方に加えて、インターネットをきっかけに訪れる人も増えている。

「ネットで見つけた商品を目当てにいらして、お店で重さや手触り、香りなどを確認したいという方が増えていますね。実際に手に取って確認していただけるのも、この場所の役割になりつつあるのだと思います」

この店の歴史はボーデッサンの新たな挑戦の歴史ともいえる。一方で、アジェンダがオープンして以来、変わらないものもある。それは、店内にミシンが置いてあること。ミシンは、職人が一つずつ心を込めて作っているボーデッサンを象徴するアイテムだ。お店にあるとはいえ、このミシンはインテリアがわりではない。店内でオリジナル商品を作るための大事な仕事道具だ。

「ロンドンにセビルロウ(サヴィル・ロウ)という通りがあるんです。テーラーが集まっている通りで、日本語の背広の語源にもなったと言われている場所です。そのセビルロウのテーラーは、一階が店舗、半地下が工房になっているんですよ。道を歩いていると、窓から半地下の工房がちらっと見えるんですが、それがとてもかっこよくて。この店の造りも、そんなテーラーのイメージとぴったりだなと思って」

ものづくりに携わる彼らはもちろん、訪れた人の想像力を広げてくれるような場所。それがアジェンダだ。その空気は、あるスタッフとの出会いによってさらに方向づけられたと言っていい。それが、オープン時から働いている保坂昌子さんだ。

「このお店がある谷中には、当時は今以上にギャラリーがあって、出店するのに面白い場所だと感じました。だからこそ、ただモノを販売するだけでなく、街の魅力を反映させたいと思っていたんです。そんな時、紹介でこのお店に入ってきてくれたのが、藝大で銅版画を専攻していた保坂さんです。保坂さんのネットワークによって、さまざまな人とのつながりができていきました。また、店内にある平ミシンは、工場で使うミシンと比べてできることは限られてしまいますが、だからこそ、保坂さんの持ち味が生かし、ワークショップなども開催しています」

https://agenda.beau-dessin.com/blog/2020/03/16/200614

 保坂さんの友人であるアーティストや、地元の個人店など、谷中ならではのネットワークを生かしたワークショップ。こうしたチャレンジは、アジェンダというお店の幅を広げるだけでなく、職人によるものづくりにこだわってきたボーデッサンというブランドが前進し続ける駆動力にもなっているようだ。

 伝統と芸術が息づく谷中の街の一画で、街の空気と呼吸を合わせるように歴史を刻み続けるアジェンダ。その歩みは、ボーデッサンのものづくりとともにこれからも続いていくことだろう。

agendaアジェンダ

住所)東京都台東区谷中7-4-10

電話)03-5832-8505

営業時間)12:00~17:00

休日)不定休(来店前にお問い合わせいただくと安心です)

アクセス)JR日暮里駅より徒歩6分、東京メトロ千駄木駅より徒歩8分