裁縫職人・阿部早紀奈さん『若手職人が魅了された バッグづくりの奥深さ』

 どんなに技術が進んでも、ものづくりを支えるのはやはり人だ。しかし、さまざまな分野で今、手練れが次々と引退し、職人が減っている。それは皮革製品でも同じこと。そんななか、ボーデッサンでは新たな職人が誕生した。縫製職人の阿部早紀奈さんだ。入社してまだ1年にも満たないが、すでにバッグづくりの戦力として活躍している。

 もともと何かを作ることが好きだったという阿部さん。ものづくりへのこだわりは、高校時代からその片鱗を覗かせていた。「編み物の中でも特にかぎ針編みにハマっていました。私が通っていた高校のあたりに、スズメの像がついている車止めがありまして。そのスズメの服をかぎ針編みで作っていました」

 しかし、スズメの服づくりは失敗の連続だったという。立体的なスズメにぴったり合う服を作ること自体も難しいが、せっかく着せても屋外なので風に飛ばされてしまうのだ。「尻尾にくくりつけるようにしたら、成功しました。ハロウィンやクリスマスの衣装とか、季節によって服を変えて。みんながいない時を見計らってこっそり着せ替えていました(笑)」

 誰も見ていないときにこっそり着せた「スズメの服」は、地域でちょっとした話題になった。「見た人を驚かせたいなと思っていたので、小さい子が『スズメが服を着てる!』と喜んでいるのを見たりすると嬉しかったですね」

 そんな阿部さんは、高校を卒業後に服飾専門学校へ進学。バッグやアクセサリーなどの学科で縫製技術を学んだ。その時、バッグづくりを指導してくれた先生が、ボーデッサンの仕事を請け負っていた縁でこの会社を紹介されたのだという。入社の決め手は、雰囲気が良かったこと。「ピリピリしてない、ほんわかした雰囲気がいいなあと思いまして」と阿部さん。

 入社後に最初に配属されたのは、縫製部ではなく裁断部だった。縫製技術は学校で学んでいたものの、裁断は未経験。戸惑いはなかったのか尋ねると、阿部さんはその細い首を横に振った。「それはありませんでした。そういうものだと思っていたし、裁断部で革の見方や、バッグにはどんなパーツや工程があるか覚えることができましたから。ただ、一枚の革から型を抜く時は毎回緊張しましたね。無駄にしちゃいけないって」

 裁断部で1ヶ月ほど学んだ後、縫製部門へと正式に配属された阿部さん。ここでもバッグや小物の製造工程を一通り経験してから、バッグの縫製を任されるようになった。

「学校でもバッグづくりは経験していましたが、ここでは作る量が違うので、一つひとつにかけられる時間も限られますし、ミシンを踏むスピードも違います。また、糸の太さや色、ミシン目の幅など決められた通りに仕上げるのも難しいところですね」。

 時にはなかなかうまくいかないこともある。「うまくできない時って、ミシンが進まないんですよね。同じミシンでも、やっぱり使う人によってクセがあるんです。だから、うまくミシンが進まない時は、抑えの高さや種類を変えてみたり、糸の強さを調べてみたり。そういう調整に意外と時間がかかるんですよね。ただ、私はそういう『何が最適か』を自分で探していくのが好きなのかもしれません」

 トライアンドエラーを繰り返しながら一歩ずつ進むと、1ヶ月前にできなかったことができるようになる。そこにも達成感を感じるのだという。「入社前は、『会社って新人のうちはあまりいろいろやらせてもらえないんだろうな』って想像していたんです。でも、実際は早くからミシンを任せてもらえたり、いろんなことをやらせてもらっています」

そんな阿部さんについて、上司であり裁断部門長の長島則之さんはこう語る。「革という平面をどう使えば立体になるかを理解し、想像して形にする能力が優れていると思います。また、ただぺたぺたと組み立てていくのではなく、ミシンの縫幅などのバランスを考えながら、雰囲気のあるバッグに仕上げるのが上手なんですよ。私たちが知っていることをすべて教えて、みんなで大事に育てていきたいと思っています」

 単なる技術だけでなく、ものづくり文化の担い手として期待を集める阿部さん。その目標を聞いてみた。「展示会のシーズンにはバッグのサンプルづくりを少しやらせてもらっているのですが、もっとスムーズに作れるようになりたいですね」

 空いている時間や休日には、自分で革を買ってきて、自分でデザインしたバッグを作ることもあるという阿部さん。鈍色の無骨な業務用ミシンの前に座る小柄なその背中が大きく見えた。