裁断士・秋田浩さん 前編 『ものづくりのこだわりを支える裁断師の仕事』

秋田浩さんの仕事は裁断士だ。ボーデッサンのものづくりはこの人から始まる。

「裁断師の仕事は、革からパーツを切り出すこと。バッグはその種類ごとに使うパーツの形も種類も異なります。例えば、今手がけている バッグは表地と裏地、芯材を合わせて19パーツありますが、パーツによっては2枚必要なものもありますね」

一つのバッグにどんなパーツが必要か書かれているのが、見積書だ。裁断士はこの見積書の内容をもとに革に型紙をあて、裁断していく。 しかし、その仕事は生地の端からどんどん型紙をあてて裁断していけばいいものではない。

なにせ、彼らが扱っているのは巨大な一枚の革なのだ。牛の半身分の革は、首からお尻、前足から後ろ足まで含まれている。

「ここを見てください。シワになっているでしょう。これが牛の首の部分です。その下が前足ですね。一番いいのはお尻の部分。シワもシミも 少なく、きめが細かくて締まっているんです。革には、伸びる目(方向)と伸びない目(方向)があるんです。例えば、ショルダーの部分を伸びる 目に裁ってしまうと、使っているうちに革が伸びてしまうんです。すると、縫製職人の仕事にまで影響してしまいますから、革の特性を理解して おくことが重要ですね」

どの部位からどのパーツを裁断するか。それが、裁断士の腕の見せ所だ。

革という素材ならではの難しさもある。

「革はどうしてもキズやシミがあるものですが、裁ち方が悪いと、バッグの胴判(もっとも面積の大きい正面の部分にキズやシミが入って しまうことが。裁断そのものは機械で行いますから、裁断士に必要なのは、キズを避けたり、シミのあるところは隠れる場所に使ったり、 と言った、革をみる目なんです。」

ボーデッサンというブランドのこだわりも、裁断士の仕事が支えている。 「ボーデッサンはバッグ自体が大きい上に、革を大きく使うので、裁断が難しいですね。皮革バッグの胴判(本体部分)って、パーツを縫い 合わせて作ることが多いんです。そうすれば、キズやシミのないところを使えますから。でもボーデッサンのバッグは、胴判の型が大きい んですよ。そのほうが革の風合いが出るし、形がきれいに出るので。でも、その分キズやシミを避けて裁断するのが難しいんです。」

実際に裁断するところを見せてもらった。古めかしい機械は、工場が出来た当時から使われているもの。革に型を置き、機械にセット する。上からポンと押すと、圧力がかかって型抜きのように革が裁断される。 型を見せてもらうと、刃物のように鋭い。これなら一瞬で 切れるわけだ。

裁断士に求められることはまだある。それは、いかに効率よく裁断し、無駄をなくすかということ。 「革の裁断では、1D/S(デシ)という単位を使います(1D/S=10cm×10cm)。見積書にはバッグ1本に必要なパーツの種類と数に加えて 1本あたり何D/Sの革が必要か、ということが書かれているんです。例えば、これから裁断するバッグは1本87D/S。87D/S以内に収まっ たら、より利益が上がります。反対に、87D/Sを超えてしまえば、その分収益は下がります。」

つまり、裁断士の仕事はバッグの仕上がりだけではなく、収益にも大きく影響を与えるものなのだ。  伸びる目と伸びない目、キズやシミの有無に気を配りながら、できるだけムダを出さないよう、一枚の革に複雑なパズルをムダなく組み 合わせていく。この複雑な作業を見積書をパッと見ただけで出来るようになれば、裁断士として一人前。そうなるまでには、5年位はかかる という。

実際、裁断士として30年のキャリアをもつ秋田さんは、見積書をパッと見た瞬間、一枚の革の上にどう型紙を置くか、大体のイメージが 頭に浮かぶという。 「この仕事に必要なのはイメージ力。それを身につけるには、ひたすら経験を積むこと。流れ作業ではないので、職人一人ひとりの力量を上げて いくことが重要です。そして、他のメーカーには出来ないような無理なオーダーにも答える。それが私たちの強みだと思います。」